外は数日間も続く激しい雨。家を出てもう10日以上も経った。17歳、人間の年齢に換算すると84歳になるそうだ。もし自分の最期を悟って家を出たなら、何とも寂しい。最期はシッカリと看取ってやりたかったのに。
猫は自分の死期を感じると、人に挨拶をして何処かに去るそうだ。キータンも挨拶をして消えてしまった。
ほとんど家から、家の庭から出る事も無かったのに、3日間どこかに行って戻り、数日間赤ちゃん返りのように甘えて、突然家を出てしまった。大好きな釜揚げシラスと缶詰を混ぜて、いつもは一杯食べるのに、離れると食べるのを止めて胸に抱きついてきた、頬や頭をこすりつけてきた。ときどき何かを言いたそうに顔をジッと見つめてた。別れの挨拶だったのかな。

ずっと側に居て、唯一の話し相手だったのに。
家に来た頃から骨盤や大腿骨に骨折があり、無理に手術をする事は無いといわれた。その言葉の通り、成長すると共に元気に走り回っていた。16歳を過ぎた頃から、尿失禁がおきたり、ウンチをお尻に付けたままだったりと、急激に老いてきたのがわかった。
去年、完全にリタイアをし、猫1匹との生活が始まった。

捨て猫で、まだよく目も開いてない頃に捨てられ、猫好きの人に拾われ、2週間の入院治療の後に我が家に来た。怖い思いをしてきたのか、家の者にも懐かず、家の片隅や庭の木下で一人遊びをしていた。この子が来たときには、15歳になる雌猫のミー子が家族の中心になっていた。人の言葉を理解し、子供達の遊び相手として、一緒に子育てを手伝ってくれてた。
子供達それぞれが大学や結婚で家を出て、夫婦と猫2匹の生活になった。間もなくミー子が20歳を過ぎて突然動けなくなり、1ヶ月の入院の後に、家に戻り家族に見守られながら息を引き取った。20歳まで元気に走り回り、妻の話し相手にも成っていたのに。その後に妻の末期癌が見つかり、10カ月後に亡くなった。ミー子がうるさがられるほど妻にまとわりついていたのは、癌を感じていたからかもしれない。
独居老人になり、はじめて側にキータンが居る事を感じた。一人暮らしになり、最も信頼してた人の、長い間の裏切りを知り、動けなくなって寝込んでしまった。お腹が空くのか、寝てる横に来て添い寝をするようになった。半年も続いて、その後に気張らしもかねて勤めに出た。満70歳をむかえる前に、6年半の勤務を辞めて、やり残した事をやろうと決めた。退社して、猫だけとの生活が、ほとんど人とは会わないような生活になった。

机に向かうとキータンが来た。

邪魔もしたけど、話し相手にも成ってくれた。
互いに老いて、どちらかが先に逝くときは見守ろうと約束をしてたのに、先にどこかに行ってしまった。17年間、我が家に来て幸せだったのだろうか。あのうるさいくらいにすり寄ってきたのが別れの挨拶なら、あの時に外に出られないようにすべきだったのに。
養老先生の飼い猫の、18歳になったまるちゃんは、先生の出掛けてるときに外の木下で息を引き取ったそうだ。猫は死期を悟ると、人目に付かない静かなところに行って、息を引き取るそうだ。

近所で誰にも見られず、近くの渡良瀬川に行ったのかもしれない。広い河原の中を探したけれど、見つからなかった。あるいはどこかの家に保護され、我が家のような独居老人との変化の無い生活よりも、今は楽しく暮らしてるのかもしれない。
どうか、そうあって欲しいと祈る。思い出したら、いつでも帰ってきて。いつまでも待ってる。
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