猫が消えた。17年間家に居て、8年以上も二人だけで暮らし、側から離れる事がなかったのに、とつぜん居なくなった。

金曜日の夕方に、お風呂で身体を洗った。捨て猫当時にいろいろと苦労をしたらしく、腰も鼻も悪かった。親切な猫好きの人に拾われ、病院に入院して治療をしたと聞いてる。その後我が家に来た。先住雌猫にかまってもらえず、家の者とも馴染めず、1匹で遊んでいた。何度か先住雌猫に連れられて、猫の集会には行ったらしい。
子供達はそれぞれに巣立ち、先住猫は20年と半年で死んでしまった。すぐに妻の末期癌が分かり、約1年間看護に専念した。その間、この子キータンは何をしていたのだろうか。妻が亡くなり、気晴らしに契約社員として働き始め、一人と1匹の8年間の暮らしが始まった。

去年、契約の更新前に退社して、1日中一緒の生活になった。今年の初めに冠動脈狭窄が分かり、4日間の入院をした。ステント治療を終えて帰ると、玄関前の生け垣の中で待ってた。餌も充分に用意してたのに、半分くらいしか食べてなかった。その頃から全く離れようとしなくなった。ステントを入れてから、コロナの事もあり外にも出る事も無く過ごし、体力が急激に落ちて、日常の掃除や、暑い日が続いてるのに冬の暖房器具さえ片付けてない。どれだけ体力が無くなり、何も出来なくなっても、お前よりも長生きをして最後まで面倒は見るから、といつも話していたのに。
キータンの17年、人間の年齢に換算すると84歳になるそうだ。痩せてヨロヨロ歩き、ベットに飛び上がる事も出来ない。腰が悪いのでドスンと横になると、そのたびに少しチビっていた。トイレから出てもお尻にウンチが付いていたり、次第に毛繕いも出来ず、野良のように汚れてきて、毛の艶も無くなってきた。あまりにも汚いので、金曜日に風呂に入れて洗った。その後外に出て、姿が見えなくなった。

近所を探しても見つからず、庭の木の陰や行きそうな場所を探しても見つからない。むかし猫の集会が行われていた、橋の下を見てもいない。若くてキレイな頃ならば、何処かの家で一時期過ごすかもしれないが、今はあまりにも老いて痩せて毛並みも良くない。
この橋の下は、以前は飼い猫や野良猫が集まり、一晩を過ごすそうだ。今は猫を飼う人も少なくなり、野良猫もほとんどいなり、集会も行われなくなった。猫が死期を感じると、河原の雑木林の中に入るそうだ。その弔いで猫が集まり、一晩を過ごすと聞いた。そんな感情など猫には無いと言ったものだが・・・。残念ながら下に降りる体力も無く、見つける事が出来なかった。

橋の下で暮らしてる、唯一の野良猫が前から来たので、近付くと水辺の方に走って逃げた。
動物は、生きるとか死ぬとか苦しいとか、それから逃れようとしないらしい。蜘蛛も子供が孵ると、自らの身体を餌として与え、逃げないものらしい。サソリも瓶の中に入れると、自らの首に毒針を刺して死ぬそうだ。幼い頃に田舎で飼われていたサバトラの猫も、いつの間にかいなくなった。爺は死期を感じて山の中に入ったのだろうと言った。キータンも死期を悟り、野生の本能が目覚めたのかもしれない。ヨロヨロ歩きなのに、誰にも見つからずに、何処かに消えてしまった。最期は看取る覚悟でいたのに。何処へ行ってしまったのか。
自分も最期の時は、キータンのごとく、斯くありたいと思う。
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