猫と暮らす|何もしないという働き方

我が家にはキータンという名前の、茶トラ白の猫が居る。この猫は全く何もしないで、一日中寝てるか、起きればご飯を食べてトイレに行き再び寝てしまう。実に見事なほど何もしない。この家に来て、何もしないという働き方を選んだようだ。

この猫と暮らすようになって、もう14年近くになる。あと何年くらい一緒に過ごせるのだろうか。人間の年齢に換算すると73歳らしいので、既に3歳も追い越されてしまったことになる。7年前に妻に先立たれ、いわゆる独居老人となってしまった。その頃からこの猫を、何となく意識するようになった。おもしろいことに、妻の入院中は病室内に泊まり介護をすることが多かったのだが、1匹で残されたコイツの餌などは、どうしていたのか全く記憶に無い。

この猫が我が家に来たとき、何とも貧相な顔をしていた。妻の友人が散歩中に、いじめられて死にそうになってる子猫を助けて、2週間も動物病院に入院治療させ何とか元気に動けるようになった。元気にはなったが、その人の家には8匹もの猫が居て、ついに引取先として我が家が選ばれてしまった。先にミー子という15歳になる賢い雌猫が居た。このミー子が元気が無くなったので、友達がわりにと連れて来たが、ミー子さんはコイツが大嫌いなようだった。大嫌いなノラ上がりのチビ猫がすり寄って来るものだから、おかげでミー子は元気になれた。

ミー子は私達と共に、二人の子供達の子育てに協力してくれた。猫としては少し変わっていて、まるで人間のようにと言うか、雌猫の本能というモノなのか二人の子供の相手になり、熱で寝てるときなどは自分の子供を守るように付き添っていた。そういうミー子とは大いに違い、コイツの存在感などは全く感じられない猫だった。

二人の子供達が我が家から巣立ち、ミー子も20年の命を終え、直ぐにその後に妻の肺癌が見つかり、10ヶ月間の闘病後に亡くなった。広い家の中にコイツだけが残され、互いに仕方なく寄り添う様になったものだ。

コイツは生まれて直ぐに捨てられ、子供達にいじめられて目と鼻が血膿で塞がれ、大腿骨も折れていたらしかった。いじめられ、入院中の治療でも痛い思いをしたのだろう、我が家に来てからも誰にも懐こうとしなかった。いつも隠れるようにして、ミー子が食べ残したものをビクビクするように食べていた。茶トラ白の体の色から、何となくキーと呼ぶようになり、予防接種の時に獣医さんに名前を聞かれ、キータンと言って以来コイツの名前はキータンとなった。動物病院で「キータンちゃん」と呼ばれる度に、思わず笑ってしまった。

こんな存在感も無く家族の者にもなつくこともない猫が、何もしないでただただ餌を食べてるだけの猫が、次第に互いに離れられない存在になってきたのだから面白いものだ。

この何にもしないという生き方を、この家の中で選び、今は離れられない存在として側に居る。今これを書いてるときにも、後ろで「グォーピュー、クォーピュー・・・」とイビキをかいて寝てる。何もしないという働き方だが、実は側に居てイビキという音を立てることで、一人では無いよという激励をしてるのかも。実際、コイツが居ないと、コイツのイビキ音が聞こえないと安心して寝付けないのだ。

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