第1回秋季研究会2019@松本市浅間温泉

日本温泉地域学会の秋季研究発表大会が、今回からはメインテーマを決めての秋季研究会になった。今回はその第1回秋季研究会長野県松本市浅間温泉で行われた。メインテーマは今日的なテーマとして「温泉入浴の場における入れ墨・タトゥーを考える」と、サブテーマとして長野県観光機構から「温泉地をReデザインする」として、長野県の温泉観光地の地域活性化についての討論が行われた。

会長始め全56名中のほとんどが大学関係者や研究者であり、著名な温泉ライターが3名、温泉地関係者の経営者や自治体の方など、本格的な研究色の強い研究会になってる。一般の単なる温泉好きにはいささか敷居が高い感もするが、温泉地の活性化とか歴史を学ぶ上では、日本温泉地域学会はとても面白い。今回のテーマである「温泉入浴の場における入れ墨・タトゥーを考える」は、インバウンド政策で増えてきた観光客のタトゥーについてだが、タトゥーと入れ墨(刺青)は同じ物なのに、何となくニュアンスが違って捉えられている、そこにも興味があった。

メインテーマ「温泉入浴の場における入れ墨・タトゥーを考える」

濵田眞之(国際温泉研究院)座長にして3名の研究発表と、布山裕一(流通経済大学)座長にして4名の研究発表が行われた。この発表の中で、入れ墨に対しての憲法からの見方をした発表と、差別なく受け入れてきた箱根湯本温泉「天山湯治郷」の経営者の方の考え方に感銘した。

研究発表前半:濵田眞之(国際温泉研究院)座長

いれずみへの眼差しー皮膚は世間である:小野友道(熊本大学名誉教授・熊本機能病院顧問)

「いれずみ」についての、歴史的な見方や捉えられ方についての考証が行われた。「いれずみ」は反社会的な人達(アウトロー)との見方がされてきたが、スポーツ選手達の活躍と彼らのタトゥーから、しだいにCM起用からファッション的に捉えられて、受け入れられてきた。それでも否定的な見方がされて、温浴施設での「入れ墨のある方入浴お断り」の看板が出ている。2013年8月13日の『毎日新聞』の記事「入れ墨先住民族入浴拒否」、マオリ語指導で来た女性の入浴拒否を切っ掛けに、観光庁も留意すべき事項を出したが、まだまだ考えるべき事はある。

文献上から、歴史的に「いれずみ」に対しての考え方も興味があった。入れ墨・刺青・文身、そしてタトゥーは同じ物だが、何となく別物と自分自身も考えていた。前者は反社会的であり、後者はスポーツマンというように。しかし「いれずみ」は宗教や文化、また歴史の中でのファッションとしての捉え方というように、簡単には区別できないもののようにも思えてきた。外国客の増えてくる現状で、考えなければならない。

若者の温泉入浴におけるタトゥー・入れ墨の意識調査について:高橋祐治(東洋大学大学院)

様々な設問を通して、現代の若者の入れ墨・タトゥーに対しての考え方をまとめた。アンケートを通して、ファッションタトゥーとして受け入れてきてるように思える。やはりスポーツ選手の影響もあるのだろうか、入れ墨がイコール反社会的存在という捉え方が減ってきてる。若者と自分との捉え方の違いは、結構面白い。

公共入浴施設のフィールドワークから:関谷大輝(東京淑徳大学)

スーパー銭湯(2)・温泉旅館(4)・銭湯(2)施設での調査。タトゥー拒否や、拒否の広報無しが多かった。確かに銭湯の場合は拒否は少ないが、スーパー銭湯のような入浴を娯楽の一部としてる施設では「入れ墨・タトゥーお断り」が多いように感じられるのだが。

研究発表後半:布山裕一(流通経済大学)座長

入れ墨(タトゥー)がある外国人旅行者の温泉入浴に関する対応についおうほさて:小林誠(観光庁観光資源課新コンテンツ開発推進室課長補佐)

外国人受け入れと、実際の温浴施設での間で、様々な取り組みを行っているようだ。訪日外国人に対しては、我が国では入れ墨に対しての独特なイメージがあること、施設によっては一定の対応を求められることの情報提供を行う。観光庁よりの入浴施設への働きかけとして、シールの使用、入浴の時間帯を工夫する、貸切風呂への案内、と言う対応事例を示している。

観光庁でのアンケート調査では、全国のホテル・旅館3,800施設中約600施設からの回答として、「お断り」が65%、確かにこれが実感だと思う。

別府市内の温泉入浴施設における入れ墨(タトゥー)対応と受け入れマップ:中村賢一郎(別府市観光戦略部温泉課)

先ずは別府市に「温泉課」があることに驚いた。さすが温泉を観光戦略のメインにしてるだけのことはある。その取り組みは「ONSENアカデミア」の開催や市内温泉入浴施設での対応策など、環境省の「新・湯治」施策・ラグビーワールドカップ2019・2020東京オリンピック、等々を見据え「山はチョモランマ、海はエーゲ海、湯は別府」というキャッチコピーを掲げ、様々な文化に対する対応を考えた温泉マップの作成もした。

発表を聞いて素晴らしい内容に比べ、我が群馬県の誇る日本一の温泉地草津温泉「時間湯」という100年以上も続いてきた温泉文化が、草津町の方針で消えてしまうことが残念だ。観光客を増やすための施策も大事だが、温泉文化も大切に継承して行って欲しい。日本温泉地域学会は草津町において、研究者が集まり結成されたと聞いている。毎年、草津町の後援で「温泉観光士」の講習会も行われている。本来は最も温泉観光と温泉文化を守って欲しい草津町が、「草津温泉時間湯」という文化を無くそうとしてることが悲しい。単なる一個人、草津温泉が大好きなただの市民の意見に過ぎないが・・・。

温泉入浴施設現場からー『温泉浴場と刺青』:鈴木義二(箱根湯本温泉「天山湯治郷」代表)

子供の頃から数名の刺青を入れた人と親しくしていた。その為か、刺青イコール反社会的存在とは思いたくない。同じような思いから、より深い思いから「刺青」を受け入れてきた「天山湯治郷」代表の発表は感銘した。刺青は脅すためだけではない。異形を排除せず、反社でも、共に裸になっての「共同の場」での入浴を楽しむという考え、素晴らしいと思う。

「共同湯」に対する考え方、「特別の者しか入れない、特殊な者は排除する」という恣意的な規則は設けない。これこそ「共同湯」の本来の考え方だろう。

憲法から入れ墨と入浴問題を考える:前田聡(流通経済大学)

この発表は憲法からみた刺青をした人の入浴についてで、憲法では表現の自由があるので、刺青は法律違反ではない。彫り師についても、医療行為ではなく思想・感情等を表現してる、との大阪地裁での判決も紹介された。

表現の自由(憲法21条1項)・信教の自由(20条1項)・幸福追求権(13条)により、表現のためでも宗教上文化的にも、入れ墨は違法ではない。法の下の平等(14条1項)により、入れ墨をした者を公共の場より排除することは違法となる。とはいえ、実際には多くの施設で「入れ墨・タトゥーお断り」が多い。これを他の客の不快感や不安感に感じるとするのは、どの様に考えるのか。経営者側の施設運営の自由もあるだろう。難しい、が興味ある問題でもある。

サブテーマ「温泉地をReデザインする」

松本翔(一社 長野県観光機構主任)・堀米直治(同 人材開発コーディネーター)、両氏の司会で、主に長野県の温泉地に対する対策を発表し、合わせて参加者の意見を求めてきた。

温泉や温泉地に対しての専門家ばかりなので、様々な考え方が出て面白かった。強く感じたのが、温泉地の活性化を取り組む人達は、以外と地元の素晴らしさに気付いていないことが多い。その事を指摘する先生も多かった。県全体なのか、個々の温泉地に対する対応なのか、それによって対応策は違ってくると思う。

長野県は多くの素晴らしい温泉地を有している。これからも行きたい温泉地が多い。期待したい。

懇親会

温泉観光実践士講習会後の懇親会や、温泉ソムリエのオフ会とはかなり違いますねえ。

北出恭子さん、『究極のにごり湯』にサインもらっちゃいました。歳に似合わずミーハーなところがあるので。本当は一緒に記念写真も欲しかったのに、参加者の面々の中では難しかった。

視察会

翌日(11月18日)の視察会は、「枇杷の湯」の小口さん(小口家17代当主)の案内で、浅間温泉の共同湯と、湧出口の見学を行った。小口家の先祖は、石川数正公の三男康次の子で、小口家は文禄三年(1594年)より代々松代藩御殿湯の湯守として浅間温泉を守ってきた。現在は旅館は廃業し、立ち寄り湯として提供している。

枇杷の湯

枇杷の湯使用第1号源泉

内湯脱衣場

館内には歴史的貴重な文物が

中庭の松

露天風呂への道

露天風呂への道

楓の葉に覆われた露天風呂

小口さんの案内で視察会の開始。先ずは1号源泉。

浅間温泉の原点、上薬師堂横から源泉が出ていたそうです。

多くの共同浴場があり、地元の人達により守られています。

全ての源泉はここ「源泉中央分湯場」に集められてから、各浴場に配当されます。

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