『温泉大鑑』(日本温泉協会編 昭和10年3月5日発行)が届いた。
この『温泉大鑑』は、日本で最初の温泉に関しての総合的な研究書であり、その後の研究の礎にも成ったものだ。内容的には古い物かもしれないが、研究書として因りも、温泉好きな者としてはこういう古文書的な最高峰の研究書と、現在の成分分析表とを比べるのも楽しみの一つになると思う。

何となく検索してたら、千葉県野田市清水の雪華堂書店で『温泉大鑑』が出ていた。即刻購入して、本日届いた。昭和10年発行の古書にしては、箱が色焼けしていたが中はシッカリとして汚れも無かった。送料込みで2,778円という低価格で購入できた。
これが、読むと実に面白い。とはいえ、今の本とは違い文字が小さくて、メガネを幾つか用意しメガネの上から拡大鏡メガネを付けて読んだりと、いささか読み難いものではあったが。
あまり真剣に読んでいたら、キータンが不思議そうに見ていた。
『温泉大鑑』の内容
日本は世界に誇る温泉大国であり、温泉を医療として利用してきた歴史も長い。なのに実際に科学的に温泉を定義したのは、江戸時代後期の宇田川榕菴(うたがわようあん)の『舎密開宗』(せいみつかいそう)が最初で、化学的に飲み水としての常水と鉱物質を含む鉱水とに分け、更に鉱水を華氏で5段階に分けた。成分による医療的な効能等には深くふれられていないようだ。
明治6年、明治新政府内の文部省医務局が、医療療養のために鉱泉の調査を始めた。その後ドイツ人医師のベルツ博士が日本の温泉を研究し『日本鉱泉論』を発刊し、世界に日本の温泉を紹介した。明治19年に内務省は『日本鉱泉誌(上中下)』をまとめ、発刊した。昭和4年、内務省・鉄道省・温泉業界により「日本温泉協会」が設立され、昭和10年に『温泉大鑑』が発刊された。温泉を医学・工学・法学など科学的に研究し、各地の温泉地の歴史や文化も紹介されている。日本で最初の総合的な温泉に関する研究書といえるものだ。『温泉大鑑』には強い興味が有り、どうしても欲しかった。
第一章 温泉概論

先ずは超有名な、「第一章温泉概論 第一節温泉の定義」だ。
本格的に「温泉」を定義し、温泉の成因、湧出、全国の分布、掘削、を解説してる。現在まで科学の進歩と温泉の科学的な研究が進んだが、その成果と比較しながら読むのも面白い。
「第一節 温泉の定義」・「第二節 温泉の成因」・「第三節 温泉の涌出」・「第四節 温泉の温度及び成分」・「第五節 温泉の分布」・「第六節 温泉の利用」・「第七節 温泉の掘削」。温泉愛好家としては、この第一章部分は一読の価値はあるようだ。
第二章 泉質篇

日本の温泉の分類法は、グリユンフート氏の分類を、ほぼ現在まで継承してるようだ。文字が細かくて読みにくいが、これはけっこう時間の掛かる作業で老後の楽しみにしては面白いかもしれない。
温泉法の推移と共に読み比べも面白いかも。基本的にはあまり変わっていないようにも思える。
14ページから349ページまで、『温泉大鑑』全825ページ中の大半を占めている。温泉の研究者としては、最初の「第一節 温泉の分類」20ページ足らずの部分かもしれないが、素人には「第二節 温泉要覧」の方が面白い。日本の温泉地別の泉質が詳しく載ってる。泉質についてはその効能の記載が詳しい。また泉質別に分けられた温泉地が載ってる。今と比較するのも面白いかも。
第三章 利用篇
「第一節 医療的利用」では、入浴法や適応症と禁忌症、泉質別の解説と効能などが書かれてる。今の温泉の効能よりも詳しいように思う。現在は医療的な効能よりも、禁忌症が重要な項目になってる。積極的に温泉の効果を宣伝する事はあまりないようだ。
本来の温泉は、大己貴命(オオナムチノミコト)と少彦名命(スクナヒコナノミコト)が、全国の民の健康を願い医療を目的として温泉を教えたものだと思うのだが。この二神は医療と温泉の神様として、長く讃えられ祀られ、尊崇を集めてきた。
「第二節 温泉の園芸的利用」・「第三節温泉の工学的考察」、けっこう早い時期から温泉の熱源としての利用を考えていたようだ。工学的な考察に関しては、今の方が当然ながら進んでいると思う。この部分はあまり興味が感じられない。
第四章 設備経営篇
興味は有るが、あとでジックリと読もう。とにかく文字が小さくて目が痛くなってしまった。
「第一節 温泉場の衛生施設」・「第二節 温泉場の経営」・「温泉建築」、一応は施設管理に関しての各種資格とか勉強も興味に任せて行ったので、こういう事はけっこう興味を感じる部門では有る。
第五章 法令篇
温泉に関する法令や、各国の法律等を紹介してる。
「温泉の権利」となると、様々な要件で難しくなる。土地などの不動産でありながら、地下水を利用してる事にもなるし、温泉があるからと掘れば岩盤を通して雨水等の進入により成分が薄くなったり、枯渇ということにもなる。
現在の温泉法との違い・・・といっても興味は少ない。
第六章 統計篇
研究者には面白いのかもしれないが、パス・・・
全国の温泉地の客数や施設に関して、現在とは桁違いに違っているだろう。次回温泉旅行の時に、目的地に関して読む程度かもしれない。
第七章 歴史伝説篇

難しそうな事はさておき、このP631からP690までの「第七章歴史伝説篇」が読み物としては面白い。温泉に関しての信仰と伝説に関しての研究がまとめられている。
「第一節 信仰篇」・「第二節 伝説篇」。
温泉に関する講習会や研究発表会でも、特に石川先生や小堀先生の、温泉に関しての開湯伝説や、温泉源を見つけた高僧や動物たちの伝説など、温泉文化の歴史は好きだ。「第七章歴史伝説篇」は、温泉が日本人にとって大切な自然の恵みで在ったことが良く分かり、読み物としても面白い。
第八章 案内篇

約100ページに亘り、鉄道での旅行案内が載ってる。鉄道省も加わり、療養と観光のためにまとめたのだろう。
まとめ

最後に、60ページにわたり各地の温泉宿の紹介が載ってる。他にも本文中のページに書籍や薬の広告があり、これが結構面白い。
温泉宿の紹介では、現在も温泉地の中心的存在の宿もあるが、残念ながら経営者が変わってしまった宿や、廃業した宿もある。こうしたチョットした広告のような部分からも、温泉地の歴史も感じられる。
文字も小さく、内容的にも高度であり、範囲も広い。まさに「温泉」に関しての総合的な専門書だろう。読むだけでも困難だが、老後の楽しみとしては大切な一書を得られた。温泉に関しての興味や、温泉地に関しての好奇心が湧いてくる。
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