この歳に成り、東京駅に行く機会が増えてきた。用事が有るわけではないが、駅構内をブラリと散歩し、戦前の首相暗殺事件現場に行くと、大野信三(1900-1997)先生という偉大な経済学者を懐かしく思い出す。先生に初めてお目にかかる機会を得たのは、確か二十歳頃だったと思う。経済学と共に若い頃のお話しに、大いに感銘を受けた覚えがある。
1930年(昭和5年)11月14日、首相の濱口雄幸が銃撃された。神戸に行く予定だったが、愛国社社員の佐郷屋留雄に撃たれた。
当時はまだ珍しい「中小企業診断士」という資格を持った人が、親企業の部長と共に自営だった頃の会社に訪ねてきた。その資格に興味を抱き、受験勉強を始めた。3次試験は指定された企業内での実務診断が有り、父に叱られて断念をした。
その2次試験を目指したときに、初めて経営学の中でも仮想的に都市を想定して経済活動を数理的に計算する分野を知った。その派生として認知行動学というような分野にも興味を抱いた。ステンレス鋼や特殊合金の勉強と共に、こちらでの好奇心を満足させるために、八重洲口から丸善に何度も通っていた。そんな中、大野先生にお目にかかり、若気の至りというか、実に生意気にも様々な質問をした。全てに笑顔で応えられ、あまりにも面白いお話しに大感激をした。半世紀近く前の事だが、将来の日本の自動車産業や、我が街桐生市の繊維産業の事についても先生の予想を教えて頂いた。今思えば、ほぼその通りに成っている。


東京駅南口

事件現場
その先生が若い頃に、確かドイツ留学の前だったと聞いたと思うが、東京駅で首相狙撃事件に遭遇したそうだ。とつぜん大勢の人達が走り出し、何かの騒動を感じたそうだ。それが原首相が襲われた事件だった。
ドイツ留学中の生活は、物価のインフレが激しく、これはただ事ではないと感じ真剣に経済学を学んだそうだ。やがてヒットラーの台頭と、第二次大戦へと進む事になったのだが・・・。


中央口から新幹線ホームへ

事件現場
温泉関係や旅行で東京に行くと、つい東京駅に寄ってしまう。二人の首相狙撃現場に行き、大野先生を思い出し、約半世紀を過ぎて先生の予言通りに進んだ日本経済を思うとき、2つの事を思う。一つは先生の大著『経済学原理』(上下2巻)を購入しなかった事だ。丸善に置いてあったのを見たが、高価だった事と、あまりにも分厚い装丁と、読んでもよく分からなかった事で諦めてしまった。買っておくべきだった。
もう一つは、来年に完全リタイアしたら、経営学を通信教育で学んでみたいと思っている。時間は充分にあるが、学費の余裕が無いかも・・・が残念なのだが。放送大学なら単科受講も出来るようだ。総合的な経済の流れよりも、その中に生きる人間の行動や心理について学んでみたい。
身の程知らずの生意気な望みだとは思うが、温泉関係の講習会から、特に温泉観光実践士での、温泉ソムリエ家元の「地域活性化法」を聞いてから、温泉以上に興味が湧いてきてる。これも若いときにわずか数回だが、個人的にお話が聞けた、あの小太りでいくらか猫背で怖そうなお顔なのに笑顔で話されていた、大野先生への強い憧れかもしれない。
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